【特集】大雨で閉院したクリニック 新たな診療所で診察再開 地域医療を支え続けようと奮闘する医師に密着
去年7月の記録的な大雨で浸水被害に遭い閉院した秋田市のクリニックが今月19日、新たな診療所で診察を再スタートしました。
大雨にも耐えられる災害に強いクリニックを目指し、再び地域医療を支えようと奮闘する医師の思いを取材しました。
今月19日
渡邉克夫院長
「おはようございます」「だいぶかかりましたが、ようやくきょうという日を迎えられて、それを皆さんと一緒に迎えられたっていうのが非常にうれしいです」「多少の間違いやミスは仕方がないと思います。ただそのミスをみんなで共有して、そこを修正しながら病院として成長するというふうにしていきたいと思います」「きょうからよろしくお願いします」
秋田市広面に新しくオープンしたクリニック。
多くの患者がこの日を待ちわびていました。
25年余りにわたって地域の医療を支えてきた渡邉克夫院長です。脳神経外科や整形外科が専門です。
新しいクリニックでは従来の約3倍の速さで検査できるMRIが予約なしで受けられます。
患者の思いを支えにクリニックは復活を遂げました。
クリニックは記録的な大雨の影響で閉院を余儀なくされた
クリニックは、1年前まで秋田市の南通にありました。
「職員の入り口なんですけど最後、カウントダウンしてたんですけども」
この日がクリニックの最後の1日でした。
去年7月、県内を襲った未曾有の大雨によって南通りにも水が押し寄せました。
クリニックは床上30センチまで浸水。画像診断装置のMRIをはじめ設備の復旧には5億円近くの費用が必要でした。
「こんなに簡単に終わっちゃうのかなって…」
閉院を決断した渡邉院長。しかし、患者を放ってはおけませんでした。
スタッフ総出で泥をかき出し10日ほどで診察ができるまでに復旧しました。
渡邉院長は、一人ひとりの要望を聞きながら閉院までにおよそ2000人の患者を他の病院に引き継ぎました。
大雨被害を乗り越えて、最後の日まで患者のために手を尽くし続けました。
渡邉院長は秋田県内でも数少ない頭痛専門医 診療再開を期待する患者の声が院長を後押しする…
閉院から10か月後、秋田市で頭痛に関する講演会が開かれました。
「ここ10年ちょっとなんですが、頭痛を予防するという考えが広がってきて、実際にできる薬が病院から処方できるようになってきています。」
頭痛の専門家として招かれた渡邉院長。
この日は頭痛の悩みや問題に応えていましたが、閉院後は医療の現場からも離れることを考えていました。
「お元気ですか」
「お久しぶりです」
「先生のお人柄でね、みなさんが病院を待ち望んでいたんです」
渡邉院長の背中を押したのは、再開を期待する患者の声でした。
渡邉院長は新たなクリニックを建てることを決意します。
「借金までしてやるのは頭おかしいのかなって思われるかもしれないけれども、頼られてというかですね、今までやってきてその経験を生かして、みんなの役に立ってくれと言われてやるのであれば悪い気もしないし」
新たなクリニックは、紹介先となる総合病院へのアクセスが良く、多くの患者を受け入れるための広い駐車場が確保できる、広面地区に構えることにしました。
建物はドラッグストアや100円ショップ、美容室が入る複合施設です。
渡邉院長の実績を評価した銀行や企業からの支援を受けて、新たなクリニックの建設が動き出しました。
診療のかなめとなるMRIは以前の約3倍の速さで検査を終えることができる最新型を導入しました。
さらに大雨対策として、去年7月と同じ規模の大雨にも耐えられる止水板を設置しました。
他にも医療機器の配線を天井に設置し、排水ポンプも導入しました。
新しいクリニックは同じような大雨被害にあった場所に建設 そして…診療再開の日
そして迎えた開院日。
渡邉院長が1年ぶりに医師として戻ってきました。
クリニックには以前から通院していた患者が多く訪れました。
親しみを感じてもらおうと、マスコットのロボットやステンドグラスは前のクリニックから引き継いだものです。
患者の気持ちに寄り添い続けた日常の光景がようやく戻りました。
患「足が冷たいんです」
院「どっちの足」
患「右足が特に」
院「しびれは?」
患「しびれはあります」
院「詳しく見るんであればMRIなので」「MRI撮る気で来た?」
患「撮るつもりで来たんですけどもあまり混んでるんだったら」
院「大丈夫大丈夫(受付)2番目だから撮れます」
初診から早速予約を入れずにMRI検査を受けることができました。
「そっから出ている神経が、ここわかりやすいところ骨ずれてるでしょ。腰椎のすべり症っていう、骨がずれてて、それが原因で脊柱管が狭くなってる」「足のほうにいく神経の根元が圧迫されてしびれちゃってる。だから足が悪いんではないのよ。しびれるのはこっちだけども、悪いのはここ」
日常生活に支障が出ていた痛み、その原因がすぐにわかりました。
渡邉院長はこの日訪れた約50人の患者のために予定よりも3時間ほど時間を延長して診療を終えました。
秋田メモリアル・わたなべクリニック 渡邉克夫院長
「早く病気を見つけて、あの時に助けてもらったんですよっていう話を聞かせていただくと、本当にこの仕事を選んでよかったなと。で、それが毎日経験できるっていうのが僕の喜びなので、そういうことをやっていくのが最終的に地域医療につながっているということであればいいのかなと。わたしもうれしいしもちろん患者さんもうれしいというのをうまく循環させながら、これからもやりたいなというふうに思っています」
前のクリニックでは年間延べ5000人のMRI検査を行っていたということです。
渡邉院長はこれからも市民の健康を守るため地域医療を支え続けます。…