番組審議会リポート|
PROGRAM COUNCIL REPORT
第656回番組審議会が2月18日に開かれました。合評番組は「ABSラジオスペシャル 見えない病」でした。
委員からは
高次脳機能障害を抱えながらシンガーソングライターとして活動する大川ちさとさんの歌や率直なインタビューを通じて、障害を抱える人がどんな思いで日常を過ごしているのか、どんなサポートを必要としているのか、などがわかりやすく伝わってきた。
「高次脳機能障害」という言葉の発音、特にイントネーションや言葉の区切り方が発言する人ごとに違っていて、気になった。言葉自体が定着していない、イコール理解が進んでいない、ということなのだろうか。
大川さんが、白血病から脳梗塞、そして高次脳機能障害を持つことになった経緯がわかりやすく伝わってきた。そして、感情が不安定だったり時間を守れなかったりといったことで、周囲から誤解されていた中、「障害と診断されてほっとした」という言葉に苦悩の大きさが凝縮されていたと思う。
普段ラジオを聞かないため、1時間のラジオ番組を聞くことはかなり大変だった。しかし、集中して聞いてとてもいい番組だと思った。番組には4つの曲がうたわれていたが、曲ごとに4回に分けて放送してもらえればラジオになじみのない人にもわかりやすかったのではないか。
自分の障害を隠すことよりも、周囲にさらけ出してできないことは助けてもらう、という発想もあるのだな、と思った。歌っている曲の歌詞をネットで検索し文字で見たら、まさに自分をさらけ出している曲だった。しかし、暗さはあまり感じず、希望のある、心に残る曲だった。いろいろと考えさせられる番組だった。
番組で伝える内容と大川さんが歌う歌詞とがピシッと合っていて、聞く人にインパクトを与えながら伝えることができていた。また、病院で緊急処置を受けるためにストレッチャーにのせられたとき、縁起物のカエルが入った額縁が割れてしまった場面をお母さんが語るシーンなどは、頭の中に映像が浮かんできて心に迫るものがあった。ラジオならではの効果だったと思う。
番組を聞いていて、障害とはなんだろうか、ということを考えされた。障害は個性だ、という見方もあるが、ならば支援はいらないよね、という風に独り歩きしてしまいかねない。また、我々も皆いずれは歩けなくなったり認知症になったりして支援が必要になってくる。また、性格だって不安定な部分、暴力的な部分などは人間だれしも多かれ少なかれ持っている。そうした、障害とは何か、支援とは何か、人間とは何か、という重い問いを突き付けて来る番組だった思う。
といった意見が上がりました。
第655回番組審議会が昨年の12月16日に開かれました。議題は「2024年を振り返って」でした。
委員からは
秋田放送は開局70周年ということで、開局記念番組は力が入ったものが多かった。特に民謡を扱った番組が2つ入っていて、民謡に関するこれまでの積み重ねが感じられた。
「大雨から1年」や「クマージェンシー」では現在進行形のニュースをしっかりと息長く取材した内容が印象に残っている。「相撲少年」やブラボー中谷さんの番組は、ちょっとした出会いからしっかりと取材を重ねて相手から本音を引き出しているドキュメンタリーだった。担当者が個人として、思いや相手との関係性をつないで形にしている番組が多いと感じられた。
クマの問題で秋田県が全国的に注目される前に「クマージェンシー」を制作していたのは先見性が感じられた。クマが目の前にいることが不思議ではなくなってしまった日常が、映像を通して訴えられていた。クマの駆除についても、暮らしを守るためには致し方ないことなのではないか、という問題提起がされている番組だった。
合評番組全体を通して感じられるのは、「人」が大事だということ。番組タイトルに人の名前が入っていることで印象に残りやすかったり、相撲少年が部活づくりで苦労している顔を見て地域の問題の深刻さを感じたり、人にフォーカスして伝えることで、それに付随した様々な問題や歴史などが入ってきやすくなるのだ、ということを感じた。
今年は今までの中でも特にレベルの高い番組が多かったと思う。民謡や伝統行事など秋田が誇れる文化が美しい映像と共に紹介されていて、これは秋田の放送局にしか作れない番組だ、と感じた。白神山地の美しい自然を紹介してもらい、自分でも行ってみたくなった。ABSには地域を代表する放送局として今後も私たちを楽しませてほしい。
ラジオ番組「花子の、はなみち。」は、ラジオが苦手だという人にも情景や気持ちが想像できて、とても分かりやすい番組だった。ラジオはSNSとのコラボも進んでいるし、新しい可能性が出てきているのではないか。ラジオは厳しい状況が続いているが、ラジオを持っていることが強みに変わる時代が来るかもしれない。少なくともそのためのアンテナは張っておくべきだ。
秋田に根差し、秋田の放送局だからこそ作れる番組を作っていく。しかしそれがどの地域、どの人間にも共通する普遍性に到達することで、その価値は全国、世界につながっていくことになる。それが今回、各番組を通じてある程度実現されたのではないか。地域に根差しつつ地域を超えることは、番組制作に限らず秋田県が向かうべき方向なのだと思う。
といった意見が上がりました。
第654回番組審議会が11月19日に秋田放送で開かれました。合評番組は「NNNドキュメント’24 いかさま手品師の夢 ~夫婦、1000日の奮闘記~」でした。
委員からは
番組の中で語られた「コロナ禍でマジックを見てもらう場が失われたことが悲しい、悔しい」であるとか、病気になって気弱になり「需要が無くなっていくならフェードアウトすればいい」といった、本心から出た言葉が表情と共に伝えられているのは、密着取材の成果だと思う。少し気になったのは、場面の切り替わりで最新の話なのか古い話なのか、分かりにくいと感じた。
一つ一つのエピソードに感激したり応援したりしながら見ていた。病気でもコロナ禍でも、日々やっていることが少しでもできることの幸せ、というものが見ている人に伝わったと思う。同じように闘病している人へのエールにもなるのではないか。ただ、タイトルにあった「夢」というものが、人生は夢のようにはかない、という意味に思えてしまって、少し寂しい気持ちになった。
昔、会社の忘年会に来てもらったことがあり、恰幅の良かった人がしぼんでしまった姿を見ると、人生いろいろなことがあるんだなぁと感じた。ステージ上のパートナーのみならず、人生のパートナーという奥様のスタンスが非常によく描かれていて、目頭が熱くなることがあった。大きなドラマがあるわけではないが、番組全体が自然体で淡々と描かれていることに共感を覚えた。
番組を見ていて、女性って強いなぁ、と思わずにはいられなかった。奥さんが言っていた、「立てなくなっても手が動くのであれば車椅子で、手が動かないなら私が代わりになってでもマジックをやりたい」という言葉から、中谷さんを思う気持ちが痛いほど伝わってきた。この番組は、夫婦の絆、家族の在り方を描いたものだと思う。
この番組の主人公は奥さんだったのではないか、と思いながら見ていた。番組では弱気になった人がもう一度夢に向かって頑張ってみようと思うようになる様子が描かれていたが、その主人公はまさしく奥さんで、「病気でやめるのはいいけれど、弱気でやめるのはいやだ」という言葉に、女性の強さを感じた。
奥さんの強さは、愛情だったのではないか。弱気になったこの人がこのままやめてしまったら、この人が不幸になる、そうさせないために強くあろうとしていた。とても魅力的な二人だと思う。この番組は前向きに頑張っているという人たちを単純に描くのではなく、病気などで深刻な事態を抱えながらも頑張っていこう、という2つの方向性が共存している。そのことが深みというか、立体的な奥行を番組に与えていた。
といった意見が上がりました。